ビザ・移住 × 不動産 シリーズ
米欧アジア・中東の投資移住制度を比較する|「不動産で取れる居住権」の地図と、日本居住者が見るべき税務接続の国際視点編
世界の投資移住制度は、不動産直結型・ファンド型・所得資産証明型・不動産排除型の四つに分類できる。本稿は欧州で不動産直結型が縮小しファンド型へ移行した経緯、UAEの不動産直結型と無所得税の組み合わせ、東南アジアの所有権制約、北米・豪州の外国人買い手課税、外国人から見た日本の制度、日本居住者に付いてくる三つの税務論点とアクセス手段を整理する国際視点編。
slug: auto-2026-09-09-global-residency-property-comparison title: 米欧アジア・中東の投資移住制度を比較する|「不動産で取れる居住権」の地図と、日本居住者が見るべき税務接続の国際視点編 excerpt: 世界の投資移住制度は、不動産直結型・ファンド型・所得資産証明型・不動産排除型の四つに分類できる。本稿は欧州で不動産直結型が縮小しファンド型へ移行した経緯、UAEの不動産直結型と無所得税の組み合わせ、東南アジアの所有権制約、北米・豪州の外国人買い手課税、外国人から見た日本の制度、日本居住者に付いてくる三つの税務論点とアクセス手段を整理する国際視点編。 tags: [投資移住, 国際比較, ゴールデンビザ, 海外不動産, 外国人買い手課税] categorySlugs: [visa] assetSlugs: [real-estate] readingTime: "13分" lastUpdated: 2026-09-09 series: ビザ・移住 × 不動産 シリーズ
「不動産を買えば居住権が付いてくる」国は、世界地図の上でまだら模様に分布している。しかもその模様は、住宅価格の高騰、国際機関からの圧力、政権交代によって数年単位で塗り替えられてきた。日本の居住者が海外の居住権と不動産を同時に検討するとき必要なのは、個別の制度の最新情報を追いかけることではなく、各地域の制度がどの型に属し、どの方向に動いているかを構造として理解することである。本稿は世界の制度を四つの型に整理し、欧州・中東・アジア・北米豪州の順に地域ごとの性格を比較したうえで、日本居住者に固有の税務接続とアクセス手段を解説する。本稿は一般的な情報提供であり、個別の法務・税務助言ではない。金額や要件は改定が頻繁であるため、判断時には各国当局の一次情報を確認されたい。
世界の制度は四つの型に分けられる
投資移住制度と不動産の関係は、次の四つの型で整理できる。
第一は不動産直結型である。一定額以上の不動産購入そのものが居住許可の要件となる。ギリシャ、キプロス、アラブ首長国連邦(UAE)、トルコ、カリブ海諸国の市民権制度がこの型に属する。投資家にとって最も分かりやすいが、住宅価格への影響が政治問題化しやすく、制度の寿命は短い傾向がある。
第二はファンド・事業型である。投資ファンドへの出資、企業設立、雇用創出、国債保有などを要件とし、不動産購入は要件に含まれない。ポルトガル(不動産経路廃止後)、イタリア、米国のEB-5がこれに当たる。不動産は制度と切り離して、投資家が別途、自由に購入する。
第三は所得・資産証明型である。一定の資産や年金・所得を証明し、居住許可を取得する。不動産の購入は義務ではないが、資産証明の一部として、または追加の優遇条件として不動産が位置づけられることがある。マレーシアのMM2H、タイの長期居住ビザ、各国のリタイアメントビザや富裕層向けビザがこの型に属する。
第四は不動産排除型である。居住権を投資で付与する制度が存在しないか極めて限定的で、かつ外国人による住宅購入に制限や追加課税を課す。カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポールが典型で、英国もTier 1投資家ビザ閉鎖後はこちらに近い。
日本の投資家が最初に確認すべきは、検討している国がどの型か、そして過去十年でどの型からどの型へ移動したかである。移動の方向は、ほぼ例外なく第一の型から第二・第三・第四の型に向かっている。
欧州──不動産直結型の縮小と、ファンド型への移行
欧州は、投資移住制度の導入と廃止の両方で世界の先頭を走ってきた。
ポルトガルは2012年に不動産購入を軸とするゴールデンビザを導入し、南欧型モデルの代表となったが、2023年の住宅政策の法改正で不動産経路を廃止した。現在は投資ファンドへの出資(一般に50万ユーロ以上)、文化・研究への寄付、雇用創出などが経路となっている。スペインは2025年に投資による居住許可制度を廃止した。アイルランドは2023年に投資家移民制度を終了し、英国は2022年にTier 1投資家ビザを閉鎖した。
一方、ギリシャは不動産直結型を維持しつつ、最低投資額の地域差を大きくする方向で改定を重ねてきた。アテネ圏やテッサロニキ、主要島嶼部では80万ユーロ、それ以外の地域では40万ユーロという水準に引き上げられ、商業用から住居用への転換や歴史的建造物の修復を伴う物件には低い枠が残されている。つまり、資本を主要都市から地方へ、新築から再生へ誘導する設計である。キプロスは一定額以上の不動産購入を要件とする永住許可制度を維持している。
イタリアは投資家ビザに不動産経路を持たず、企業投資、革新的スタートアップへの出資、国債、寄付を要件とする。その代わり、新たに居住者となる者の国外所得に対して定額課税(年額20万ユーロ)を選択できる制度があり、居住権と税制を組み合わせた誘致を行っている。マルタは不動産の購入または賃貸を要件に含む永住制度を運用しているが、投資による市民権制度については欧州司法裁判所がEU法違反と判断した。
欧州の構造を要約すれば、市民権は閉じ、不動産直結型は縮み、ファンド型と税制優遇型が残っている。EU域内での移動の自由という居住権の価値は依然として大きいが、それを不動産で取る道は細くなり続けている。
中東──UAEの不動産直結型と税制の組み合わせ
UAEは、不動産直結型の制度を積極的に運用する数少ない主要経済圏である。一定額以上(200万ディルハム以上が基準として公表されている)の不動産を保有する外国人に長期の居住許可を付与し、ドバイやアブダビでは外国人が完全所有権で不動産を取得できる指定区域が整備されている。
この制度の特徴は、居住権と税制がセットになっている点にある。UAEには個人所得税がなく、賃料収入や譲渡益に対する個人課税も存在しない。したがって、不動産直結型の居住権を取得し、実際にUAEの税務居住者となれば、現地での不動産収益に個人所得税がかからない状態が成立する。
ただし、日本の投資家にとって留意すべき点が二つある。第一に、UAEの税務居住者になるためには、居住許可を持つだけでなく実際に相当期間滞在し、生活の本拠を移す必要がある。日本側の居住者判定は事実関係で行われるため、居住許可だけで日本の課税から外れることはない。第二に、UAEの不動産市場は歴史的に価格変動が大きく、外国人投資家の資金流入に依存する構造を持つ。制度の安定性は高いが、市場の安定性はそれとは別の問題である。
アジア──所有権制約と「長期滞在ビザ」の分離設計
東南アジアの制度は、欧州や中東とは異なる設計思想を持つ。多くの国が外国人の土地所有を制限しており、居住権と不動産所有権を意図的に切り離している。
タイでは外国人の土地所有が原則として認められず、区分所有建物については外国人の保有持分が建物全体の49パーセントまでという上限がある。居住については、資産や所得を証明する長期居住ビザや、会費制の長期滞在プログラムが用意されているが、不動産購入は要件ではない。マレーシアは外国人による不動産の完全所有を州ごとの最低価格の範囲で認めており、長期滞在プログラムMM2Hは資産・所得の証明と定期預金、および一定の不動産購入を組み合わせた階層制で運用されている。ベトナムやインドネシアは外国人に長期の使用権を認めるが、完全所有権は認めていない。フィリピンは土地の外国人所有を認めず、区分所有建物の外国人持分に上限を設けている。
この地域の共通点は、「住む権利」と「土地を持つ権利」を分けていることである。投資家は居住ビザを所得・資産証明で取得し、住居は賃貸か、区分所有か、長期使用権で確保するという組み合わせになる。不動産を居住権のための投資と位置づけるより、居住のための実需として位置づける方が制度の設計思想に合う。
シンガポールは別格である。投資による永住制度は存在するが、不動産は対象外であり、要件は事業投資やファンド出資で高額に設定されている。加えて、外国人が住宅用不動産を取得する際の追加買主印紙税(ABSD)は60パーセントに達しており、居住権を持たない外国人による住宅投資を事実上抑制する設計である。
北米・豪州──不動産では取れない居住権と、外国人買い手への課税
英語圏の主要移民国は、不動産排除型の代表である。
米国のEB-5は、雇用創出を伴う事業への投資(対象地域で80万ドル、それ以外で105万ドルが基準)を要件とし、個人の住宅購入は投資として認められない。不動産開発プロジェクトが受け皿になることはあるが、それは投資家が事業に出資する形であり、自らの住居を買う話ではない。
カナダは外国人による住宅購入を原則として禁止する法律を導入し、その期限を延長してきた。さらにオンタリオ州は非居住者投機税として25パーセント、ブリティッシュコロンビア州も外国人買い手に対する追加の取得税を課している。オーストラリアは外国人の住宅取得に事前審査を求め、原則として新築に限定してきたが、既存住宅については一定期間の購入禁止措置も導入された。州レベルでは外国人に対する追加の印紙税と保有税が課される。英国は、非居住者の住宅取得に対して印紙税に2パーセントの上乗せを課している。
これらの国で居住権を得る道は、技能移民、事業移民、家族移民が中心であり、不動産は関係しない。むしろ不動産は、居住権を持たない外国人に対して追加課税と購入制限の対象となる。日本の投資家がこの地域で不動産を検討するなら、居住権の取得とは切り離し、追加課税を織り込んだうえで純粋な投資として判断することになる。
逆方向の視点──外国人から見た日本の制度
比較の視点を反転させると、日本の位置づけも見えてくる。
日本には不動産購入で居住許可を付与する制度は存在しない。投資家向けの主な在留資格は経営・管理であり、日本で事業を経営することが要件である。近年の改正で資本金要件が3,000万円に引き上げられ、常勤職員の雇用や経営経験・学歴の要件が加わり、事業の実態を厳格に問う方向に動いている。不動産賃貸業を事業として経営・管理の資格を取得する試みは、事業の規模と実態の両面で高い立証が求められる。
一方、不動産の所有権については、日本は世界で最も開放的な国の一つである。外国人であっても、居住許可の有無にかかわらず、土地と建物を完全所有権で取得でき、外国人であることを理由とする追加の取得税や保有税もない。安全保障上重要な施設の周辺など一部の区域については利用状況の調査や届出の制度が設けられているが、取得そのものを制限する一般的な仕組みはない。
つまり日本は、居住権については不動産排除型、所有権については完全開放型という組み合わせである。この非対称性は、海外の投資家が日本の不動産を居住権と無関係に取得する動機となっており、日本の投資家が海外を見る際の比較の基準にもなる。
日本居住者の税務接続──どこに行っても付いてくる三つの論点
移住先の制度がどの型であっても、日本の居住者には共通して付いてくる税務論点が三つある。
第一に、日本の居住者である限り、海外不動産の賃料収入と譲渡益は日本で課税される。現地で納めた税は外国税額控除の対象となりうるが、控除限度額があり、制度の違いによって控除しきれない部分が生じる。租税条約の有無と内容によって、現地の課税権の範囲も変わる。
第二に、日本の居住者から非居住者に移行する場合の関門である。居住者・非居住者の判定は生活の本拠の事実関係で行われ、海外の居住許可を持つことは判定要素の一つに過ぎない。出国時には、有価証券等を1億円以上保有していれば国外転出時課税の対象となる。不動産はこの対象外であるが、金融資産の構成によっては出国コストが大きくなる。相続税・贈与税については、被相続人・相続人の双方が10年を超えて国外に住所を有しない限り、国外財産を含む全世界財産が日本の課税対象となる。
第三に、情報申告と情報交換である。5,000万円を超える国外財産を持つ居住者は国外財産調書の提出義務を負い、海外不動産も対象となる。海外の金融口座はCRSに基づき日本の国税当局と情報交換される。海外の居住権を得ることは、日本の情報申告義務から離れることを意味しない。
この三つは、移住先の制度を選ぶ前に整理しておくべきものである。制度の比較は移住先の話であり、税務接続は日本側の話である。二つを同時に設計して初めて、国際的な資産配置が成立する。
日本居住者のアクセス手段
居住権の取得と不動産投資を切り離して考えるなら、日本居住者が海外不動産にアクセスする手段は四つに整理できる。
第一に、個人による直接購入である。居住権の取得と組み合わせる場合はこの形が基本となる。所有権の形態、外国人への追加課税、現地の相続法の適用を事前に確認する必要がある。
第二に、現地法人を通じた保有である。外国人の所有制限がある国や、相続時の手続きを簡素化したい場合に用いられる。ただし法人の維持費、法人課税、日本のタックスヘイブン対策税制の適用可能性を検討する必要がある。
第三に、海外REITや不動産ファンドを通じた間接保有である。居住権は得られないが、流動性が高く、外国人への追加課税や現地相続法の問題を回避できる。海外不動産へのエクスポージャーだけが目的なら、多くの場合この形が合理的である。
第四に、投資移住制度が指定する不動産ファンドへの出資である。ポルトガルなどファンド型の制度では、不動産を主要な投資対象とするファンドが居住権の要件を満たす受け皿となっている場合がある。個別物件の選定リスクを負わずに居住権と不動産エクスポージャーを同時に得られるが、ファンドの手数料、流動性、運用会社の質が投資成果を決める。
どの手段を選ぶかは、居住権にどれだけの価値を置くかで決まる。居住権に固有の価値があるなら第一か第四、不動産のリターンだけが目的なら第三が出発点となる。世界地図の上で不動産直結型の制度が縮小し続けている現在、この切り分けは年を追うごとに重要性を増している。
出典
- OECD「Residence/Citizenship by investment schemes」 https://www.oecd.org/tax/automatic-exchange/crs-implementation-and-assistance/residence-citizenship-by-investment/
- 欧州委員会「Investor Citizenship and Residence Schemes in the European Union」(COM(2019) 12 final) https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:52019DC0012
- 欧州議会「Resolution of 9 March 2022 on citizenship and residence by investment schemes」 https://www.europarl.europa.eu/doceo/document/TA-9-2022-0065_EN.html
- ギリシャ移民・庇護省「Golden Visa」 https://migration.gov.gr/en/
- ポルトガル移民庁(AIMA) https://www.aima.gov.pt/
- UAE政府ポータル「Golden visa」 https://u.ae/en/information-and-services/visa-and-emirates-id/residence-visas/golden-visa
- 米国市民権・移民業務局(USCIS)「EB-5 Immigrant Investor Program」 https://www.uscis.gov/working-in-the-united-states/permanent-workers/eb-5-immigrant-investor-program
- シンガポール内国歳入庁(IRAS)「Additional Buyer's Stamp Duty (ABSD)」 https://www.iras.gov.sg/taxes/stamp-duty/for-property/buying-or-acquiring-property/additional-buyer's-stamp-duty-(absd)
- オンタリオ州政府「Non-Resident Speculation Tax」 https://www.ontario.ca/document/land-transfer-tax/non-resident-speculation-tax
- カナダ住宅金融公社(CMHC)「Prohibition on the Purchase of Residential Property by Non-Canadians Act」 https://www.cmhc-schl.gc.ca/professionals/industry-innovation-and-leadership/industry-expertise/prohibition-on-the-purchase-of-residential-property-by-non-canadians-act
- オーストラリア財務省 外国投資審査委員会(FIRB) https://foreigninvestment.gov.au/
- 英国政府「Rates of Stamp Duty Land Tax for non-UK residents」 https://www.gov.uk/guidance/rates-of-stamp-duty-land-tax-for-non-uk-residents
- マレーシア政府「Malaysia My Second Home (MM2H)」 https://www.mm2h.gov.my/
- タイ投資委員会(BOI)「Long-Term Resident Visa」 https://ltr.boi.go.th/
- 出入国在留管理庁「在留資格『経営・管理』」 https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/businessmanager.html
- 国税庁 タックスアンサー No.2875「居住者と非居住者の区分」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2875.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.1478「国外転出をする場合の譲渡所得等の特例」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1478.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.4138「相続人が外国に居住しているとき」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4138.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.1240「外国税額控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1240.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.7456「国外財産調書制度」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hotei/7456.htm
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