債券戦略シリーズ 第1回
【2026年版】ハイイールド社債の利回りとデフォルトリスク|BB格・B格・CCC格の期待値分解
ICE BofA US HY指数のYTW 7.85%・スプレッド365bp環境下で、格付け階層ごとのデフォルト率と期待リターンを分解。HYG・JNK・SJNK等ETFと為替ヘッジ戦略を比較。
読み物パート|ハイイールド社債の「今」を読み解く
2026年のハイイールド社債(Junk Bond)市場は、金利サイクルの転換期にある。米10年国債利回りが2025年末時点で4.21%、FRBの政策金利が4.50%で推移する中、米ハイイールド社債指数(ICE BofA US High Yield Index)の平均利回り(YTW)は7.85%、スプレッドは約365bpと、長期平均(約450〜500bp)を下回る水準が続いている。
このスプレッドの「タイト化」は、投資家にとって警戒すべきサインでもある。2020年3月のコロナショック時には一時1,100bpまで拡大し、その後2021年の低金利環境下で約290bpまで縮小、2022年末のFRB利上げ局面で約500bp超まで再拡大、そして2024〜2025年のソフトランディング期待で再びタイト化、という歴史を辿ってきた。現在の365bpは「信用リスクへの報酬としてやや薄い」水準にあり、リスクテイクの対価が十分に取れているかは論点となる。
一方、デフォルト率(倒産率)は2025年通年で約3.2%(LTM)と、長期平均(約3.5〜4%)をやや下回る水準で推移した。これはFRBの利下げ開始と、企業のリファイナンス環境の改善が寄与している。ただしCCC格以下の格付けが低い層に限れば、2025年のデフォルト率は8.4%と高止まりしており、格付け階層による「明暗」がはっきりしている。
日本居住者がハイイールド社債に投資する手段は、(1) 米国上場ETF(HYG、JNK、SJNK等)、(2) 日本国内のグローバル・ハイイールド投信、(3) 個別債券、の3ルートがあるが、流動性・手数料・分散効果のバランスからETF経由が最も実務的とされる。ただしドル建てで保有するため円高局面では為替差損が発生し、JPY建てで見たトータルリターンは大きく変動する。本稿では、BB・B・CCCという格付け階層ごとの期待値分解、ETFの実務比較、そして為替ヘッジ戦略の論点を整理する。
データパート|主要指標の実数値
ハイイールド社債指数の基本データ(2026年4月時点)
| 指標 | 数値 | コメント |
|---|---|---|
| ICE BofA US HY Index 平均YTW | 7.85% | 最悪利回りベース |
| スプレッド対米国債 | 365bp | 長期平均を下回る |
| 修正デュレーション | 3.12年 | 金利感応度は低め |
| 平均格付け | B1/B+ | |
| BB格構成比 | 51.4% | |
| B格構成比 | 38.8% | |
| CCC格以下構成比 | 9.8% | |
| LTMデフォルト率(全体) | 3.2% | 2025年通年 |
| LTMデフォルト率(CCC格以下) | 8.4% |
格付け階層別の利回りとデフォルト率の整理
| 格付け | 平均YTW | スプレッド | 長期平均デフォルト率 | 期待損失(概算) |
|---|---|---|---|---|
| BB+(最上位) | 6.52% | 232bp | 0.8% | 約0.3% |
| BB | 6.85% | 265bp | 1.2% | 約0.5% |
| BB- | 7.28% | 308bp | 1.9% | 約0.9% |
| B+ | 7.82% | 362bp | 3.1% | 約1.6% |
| B | 8.45% | 425bp | 4.8% | 約2.5% |
| B- | 9.42% | 522bp | 7.2% | 約3.9% |
| CCC+ | 11.38% | 718bp | 12.5% | 約7.0% |
| CCC | 14.22% | 1,002bp | 18.8% | 約11.5% |
| CCC- | 18.54% | 1,434bp | 28.3% | 約19.8% |
※ 期待損失=デフォルト率×(1-回収率40%)で簡易計算。回収率はBB→CCCで低下する傾向があるが概算。
主要ハイイールド債ETF(2026年4月時点)
| ETF名 | ティッカー | 運用会社 | 経費率 | 純資産総額 | 平均YTM | 平均デュレーション | 分配頻度 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| iShares iBoxx $ High Yield Corporate Bond | HYG | BlackRock | 0.49% | 約170億ドル | 7.72% | 3.28年 | 月次 |
| SPDR Bloomberg High Yield Bond | JNK | State Street | 0.40% | 約95億ドル | 7.84% | 3.52年 | 月次 |
| SPDR Bloomberg Short Term HY Bond | SJNK | State Street | 0.40% | 約42億ドル | 7.55% | 2.14年 | 月次 |
| VanEck Fallen Angel High Yield Bond | ANGL | VanEck | 0.35% | 約28億ドル | 6.95% | 5.42年 | 月次 |
| iShares Broad USD HY Corporate Bond | USHY | BlackRock | 0.08% | 約210億ドル | 7.88% | 3.68年 | 月次 |
| Xtrackers USD HY Corporate Bond | HYLB | DWS | 0.05% | 約31億ドル | 7.72% | 3.41年 | 月次 |
長期デフォルト率の推移(Moody'sベース)
| 期間 | グローバル高利回り債 平均デフォルト率 | 備考 |
|---|---|---|
| 2000〜2005年 | 約6.8% | ITバブル崩壊後 |
| 2006〜2008年 | 約3.2% | 信用市場拡大期 |
| 2009年 | 13.0% | リーマン危機 |
| 2010〜2015年 | 約2.4% | 金融緩和・低金利 |
| 2016〜2019年 | 約2.8% | 穏当な信用環境 |
| 2020年 | 約8.6% | コロナショック |
| 2021〜2022年 | 約1.9% | 極端な低金利で低下 |
| 2023年 | 約4.1% | 利上げで再上昇 |
| 2024年 | 約3.8% | 高止まり継続 |
| 2025年 | 約3.2% | ソフトランディング |
| 長期平均(40年) | 約3.9% | — |
HYG vs S&P 500 のリターン比較(過去10年)
| 年 | HYG(USD、配当込) | S&P 500(USD、配当込) | HYG(JPY建て) |
|---|---|---|---|
| 2016年 | +13.4% | +11.9% | +10.8% |
| 2017年 | +6.2% | +21.8% | -3.2% |
| 2018年 | -1.9% | -4.4% | -4.1% |
| 2019年 | +14.1% | +31.5% | +12.8% |
| 2020年 | +4.5% | +18.4% | -0.3% |
| 2021年 | +3.8% | +28.7% | +14.2% |
| 2022年 | -11.0% | -18.1% | +3.5%(円安寄与) |
| 2023年 | +11.4% | +26.3% | +16.8% |
| 2024年 | +8.7% | +25.0% | +17.5% |
| 2025年 | +7.2% | +12.3% | +3.8% |
※ 2022年のようにHY自体が下落してもJPY建てでプラスとなる年があり、為替と信用の二重変動が発生する。
為替ヘッジ付き vs ヘッジなしの差
| 商品 | ヘッジ | 2024年リターン(JPY換算) | 2025年リターン(JPY換算) |
|---|---|---|---|
| HYG(ヘッジなし) | なし | +17.5% | +3.8% |
| HYGH(iShares Interest Rate Hedged HY) | 金利のみヘッジ | +14.2% | +7.8% |
| 国内投信(為替ヘッジあり) | 円ヘッジ | +6.2% | +6.8% |
| 国内投信(為替ヘッジなし) | なし | +16.8% | +3.2% |
日本居住者視点の実務|税制・証券会社・運用戦略
米国上場ハイイールドETFの税制
米国上場のハイイールド債ETF(HYG、JNK等)からの分配金は「配当所得」として課税され、米国源泉税10%(日米租税条約)、および日本側20.315%が課税される。外国税額控除により米国側の10%は取り戻し可能である。
売却益は日本側のみの課税で20.315%が適用され、日米租税条約により米国ではキャピタルゲイン課税は発生しない。特定口座(源泉徴収あり)での保有なら手続きは自動化される。
ハイイールド債の魅力は月次分配の高配当だが、分配金は原則として「普通分配金」として課税対象となる(元本払戻金的な特別分配金とは異なる)。年間の分配金総額が100万円を超えるケースも多く、特定口座での一元管理が実務上は効率的だ。
国内のグローバル・ハイイールド投信
野村・三菱UFJ・大和等の主要運用会社が提供するグローバル・ハイイールド投信(例:フィデリティ・USハイ・イールド・ファンド、ピクテ・グローバル・インカム株式ファンド等)も選択肢となる。
| 投信タイプ | 信託報酬(年) | 為替ヘッジ | 分配頻度 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 国内HY投信(ヘッジあり) | 約1.65% | あり | 毎月分配 | 円ベースで安定、ヘッジコスト高 |
| 国内HY投信(ヘッジなし) | 約1.65% | なし | 毎月分配 | 為替変動を受ける |
| 米国上場ETF(HYG等) | 0.05〜0.49% | なし | 月次分配 | 低コストだがドル建て |
| 米国上場ヘッジETF | 0.20〜0.55% | 金利ヘッジのみ | 月次分配 | 金利リスクを抑制 |
信託報酬のコスト差(投信1.65% vs ETF 0.08〜0.49%)は長期保有で大きな差となる。10年間の複利で見ると、年率1%のコスト差は累計10〜12%のリターン差に広がる。
NISA成長投資枠でのハイイールド活用
NISA成長投資枠(240万円/年)では、HYG、JNK、USHY等の米国上場ETFが購入可能。NISA内では日本の20.315%非課税となるため、以下の税効率となる。
- NISA外(特定口座):分配金から米10%+日20.315% → 税引後約7割受取
- NISA内:米10%のみ → 税引後約9割受取
年7〜8%の利回りを全額NISAで受け取れば、10年間で元本比約100%の分配金を税引後キャッシュとして得ることになる。ただしNISA枠は1,800万円と上限があるため、HY ETFをどの程度NISAに配分するかは、ポートフォリオ全体の配当重視度合いによって変わる。
ポートフォリオ内の位置づけ
ハイイールド社債は「株式と債券の中間的リスクリターン」を持ち、歴史的にボラティリティは株式の6〜7割、リターンは株式の7〜8割程度となっている。ポートフォリオ組入れ比率の議論としては以下がある。
- 保守型: 総資産の3〜5%(分散メイン、BB格中心のETF)
- 中庸型: 総資産の5〜10%(HYG+USHYの組合せ)
- 積極型: 総資産の10〜15%(個別債券や高YTM ETF、CCC比率高めのファンド含む)
リバランス時には、ハイイールドスプレッドが300bp以下にタイト化した局面でポジションを軽くし、500bp以上に拡大した局面で増やす、という「スプレッド・コントラリアン戦略」を取る投資家も多い。
まとめ|編集部の視点
2026年のハイイールド社債は、スプレッドが365bpと歴史的平均を下回る「高バリュエーション状態」にある。利回り7.85%は絶対水準としては魅力的だが、信用リスクに対する報酬(スプレッド)が薄い局面でもある。投資判断としては、BB格中心の保守的なETF(USHYの上位格付けバイアス版や、フォーレンエンジェル戦略のANGL)を選ぶか、スプレッド拡大を待ってから買い付けるか、という2つの選択肢が現実的だ。
もう一つの重要な論点は為替である。過去10年のデータを見ると、HYGは米ドル建てでは地味なプラス/マイナスで推移するのに対し、JPY建てでは大きく変動する。2022年は米ドル建てで-11%下落したが、円安により円建てでは+3.5%プラスに転じた。この「為替の下駄」がJPY建てリターンを過大評価させるリスクがあり、「HYはドル資産として保有している」という視点を忘れないことが重要だ。
税制面での最大のハンドルはNISA成長投資枠での運用である。年7〜8%の高配当商品をNISAで非課税化することで、20%超の税率を避け、税引後実効利回りを9.5%前後(米国源泉10%差引後)まで引き上げられる。ハイイールド債は配当が大きいため、NISA枠の「税効率最大化」に最も適した資産クラスの1つと言える。
2026年の投資戦略としては、(1) コア層にUSHYまたはHYG(BB中心、0.08〜0.49%の低コスト)、(2) スプレッド拡大局面で追加買付の余地を持っておく、(3) NISA内で毎月分配を再投資する、という組み方が、富裕層日本居住者にとって現実的な選択肢として浮上している。CCC格以下の高デフォルト率層は、個別銘柄リスクが読みきれないため、分散度合いの高いETFで間接的に持つ形が望ましい。
出典・参照
- ICE BofA US High Yield Index Factsheet(2026年4月版)
- Moody's Investors Service: Annual Default Study 2025
- S&P Global Ratings: Credit Trends Report
- BlackRock HYG ETF Prospectus
- State Street JNK ETF Annual Report
- Federal Reserve: H.15 Selected Interest Rates
- Bloomberg Terminal: HY Spread History
- FRED Economic Data: BAMLH0A0HYM2
- 金融庁: NISA制度概要(2024年改正版)
- 国税庁: 外国税額控除・日米租税条約