相続・資産承継 × REIT シリーズ
REITが相続・資産承継に組み込まれる構造的理由|信託受益権としての設計を読み解く
不動産は古くから世代を超える資産だが、相続現場では分割・評価・換金性で摩擦が生じてきた。REITが承継資産として機能する理由を、法的構造・評価の透明性・分散効果・税務の観点から体系的に整理する。
slug: auto-2026-05-16-reit-inheritance-fundamentals title: REITが相続・資産承継に組み込まれる構造的理由|信託受益権としての設計を読み解く excerpt: 不動産は古くから世代を超える資産だが、相続現場では分割・評価・換金性で摩擦が生じてきた。REITが承継資産として機能する理由を、法的構造・評価の透明性・分散効果・税務の観点から体系的に整理する。 tags: [REIT, 相続, 資産承継, 不動産投資信託, 信託受益権] categorySlugs: [inheritance] assetSlugs: [reit] readingTime: "6分" lastUpdated: 2026-05-16 series: 相続・資産承継 × REIT シリーズ
不動産は古くから世代を超えて受け継がれる資産の代表格である一方、相続の現場では「物件の分割が難しい」「評価額で争いが起きる」「換金性が乏しい」といった摩擦を生み出してきた。こうした課題に対し、REIT(不動産投資信託)は不動産の経済的便益を証券化することで、承継資産としての扱いやすさを大きく改善する仕組みとして位置づけられている。本稿では、REITが相続・資産承継の文脈で機能する理由を、法的構造、評価方法、税務上の取り扱い、そして現物不動産との補完関係という観点から整理する。
1. REITの基本構造と「現物不動産との違い」
REITは投資家から集めた資金を不動産に投資し、賃料収入と売買差益を投資家に分配する金融商品である。日本ではJ-REITが投資法人形式を採用し、投資口(株式に相当する持分)が証券取引所に上場している。投資家が保有するのは「投資口」という有価証券であり、個別の物件そのものを保有しているわけではない。
この構造は、相続の現場で重要な意味を持つ。現物不動産は登記、分筆、抵当権の整理など物理的・法的な手続きが伴う一方、REIT投資口は証券口座上の振替で完結する。複数の相続人で分割する場合も、口数単位で按分すればよく、共有持分による争いを回避できる。さらに上場銘柄であれば公開市場価格が存在するため、評価額を巡る不一致も生じにくい。承継後の維持管理コストも、個別物件であれば固定資産税や修繕費を継続的に負担しなければならないが、REITであれば運用主体がこれらを担い、投資家は分配金を受け取るだけの立場で済む。
2. 流動性と評価の透明性
承継資産を考える上で、流動性と評価の透明性は二大論点である。現物不動産は売却まで数か月から一年単位の時間を要し、買い手の有無により価格が大きく変動する。これに対し上場REITは取引所の板で日々値付けされており、納税資金が必要な場面でも市場で換金できる。相続税の納期限は相続発生から10か月であり、この期間内に現物不動産を時価で換金することは現実的に困難な場面が多い。REITは納税資金確保の手段としても機能する。
評価の透明性も同様で、相続税申告では現物不動産は路線価方式や倍率方式により評価され、時価との乖離が議論の的になる。REIT投資口は相続発生日の終値ベースで評価されるため、評価の根拠が明快である。これは相続人間の合意形成を促進し、税務当局との折衝コストも引き下げる。
3. 信託受益権としての法的性質
J-REITの法的構造は投資信託及び投資法人に関する法律(投信法)に基づき、投資法人が資産運用会社に運用を委託する形を取る。投資家は投資法人の社員ではなく、投資口という社員権類似の持分を保有する。配当に相当する分配金は、課税所得の90%超を分配することで法人段階の課税を免除されるパススルー構造が採用されている。
この構造の重要性は、不動産から生じるキャッシュフローを「証券化された請求権」として標準化したことにある。承継の場面では、被相続人が保有していた多種多様な物件群を一括して評価する代わりに、画一的な投資口という単位で承継すれば足りる。これは資産管理の標準化という意味でも、家族信託や民事信託と組み合わせる際の親和性という意味でも大きな利点である。信託契約の対象資産として証券化された投資口を組み入れる際は、現物不動産のような名義変更や信託登記の複雑な手続きを必要としない。
4. 分散投資の効果
相続・資産承継の観点で見落とされがちなのが、リスク分散の効果である。現物不動産を一物件のみ保有するケースでは、立地、テナント、用途のいずれかで予期せぬ事象が起きると資産価値が大きく揺らぐ。REITは複数物件をプールしており、オフィス、住宅、商業、物流、ホテル、ヘルスケアといったセクター別の銘柄も整備されているため、複数のREITを組み合わせれば地域・用途の双方で分散効果が得られる。
承継後の管理コストも分散投資により軽減される。現物不動産であれば修繕計画、テナント管理、税務申告を相続人が継続する必要があるが、REITであれば運用は投資法人と資産運用会社が担う。相続人が不動産経営の知見を持たない場合でも、不動産からの収益を受け取り続けることが可能になる。これは相続人の世代によってリテラシーや時間的余裕が異なる現実を踏まえると、世代承継において重要な要素となる。
5. 配当課税と相続税評価のポイント
REIT分配金は配当所得として課税されるが、上場株式の配当とは異なり配当控除の対象外である。一方で、申告分離課税を選択すれば一律20.315%(所得税15.315%、住民税5%)の税率が適用され、損益通算の余地もある。承継後に分配金を受け取り続ける相続人の所得状況に応じ、総合課税と申告分離課税の選択が論点になる。
相続税評価は前述のとおり相続開始日の終値を基準とする一方、課税時期の属する月以前3か月の月平均終値などのうち最も低い価額を採用できる例外規定もある。市況急落時に相続が発生した場合、評価額の選択肢が複数存在することは相続人にとっての安全弁となる。現物不動産では市況低迷時の評価減を主張するためには鑑定や個別事情を立証する必要があるが、REITでは制度的に複数評価が認められている。
6. 現物不動産との併用戦略
承継資産としてのREITの位置づけを誤解しないために、現物不動産との「代替」ではなく「補完」として捉える視点も重要である。現物不動産には小規模宅地等の特例による評価減や、自宅としての利用継続といった固有のメリットがある。一方REITは流動性と分散効果を提供する。両者を組み合わせ、生活基盤としての現物不動産と、納税資金・分配金収入の源泉としてのREITをポートフォリオに併存させる設計が、多くの富裕層で採用されている。
特に、収益不動産を多く保有する家計では、相続発生時の納税資金不足が深刻な課題となる。物件を急いで売却すれば足元の時価より低い水準での処分を強いられる可能性があり、結果として相続後に資産が大きく目減りすることがある。REITは流動性プールとして機能し、こうした「換金タイミングのジレンマ」を緩和する。
7. 承継設計に組み込む際の留意点
REITを承継資産として活用する際、注意すべき点は次の通りである。第一に、REIT価格は金利と相関するため、長期金利の上昇局面では一時的に大きな含み損が生じうる。承継のタイミングが金利上昇局面と重なった場合、評価額の低下が想定を上回ることがある。第二に、分配金は法律上の保証ではなく、不動産市況や投資法人のリファイナンス状況により増減する。第三に、海外REITを承継する場合、現地の源泉徴収や相続時の取り扱いが日本のJ-REITとは異なるため、グローバル分散の名のもとに安易に組み入れることはリスクを伴う。
これらを踏まえ、承継ポートフォリオに組み込む比率、銘柄、保有形態(個人名義/法人名義/信託契約)を慎重に設計する必要がある。一般論としての「REITは安定資産」という表現を鵜呑みにせず、自家のキャッシュフロー要件と相続人のリテラシーに照らして判断することが、長期承継の成否を決める。
出典
- 一般社団法人不動産証券化協会(ARES)「J-REITに関する統計・データ」
- 金融庁「投資信託及び投資法人に関する法律」関連資料
- 国税庁「相続税の財産評価基本通達」
- Bank for International Settlements「Commercial Real Estate Finance」
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- 承継ポートフォリオに組み入れるREITの選定基準
- 米欧アジアREIT制度の比較と日本居住者からのアクセス
- 家族信託とREITを組み合わせた承継スキーム
- 不動産小口化商品(GK-TKスキーム等)との比較
