暗号資産投資シリーズ 第5回
【2026年版】欧州MiCA規制下の暗号資産投資|CASP認可とステーブルコイン規制の実務
MiCA完全施行から1年超、CASP認可165社体制の欧州市場を解説。USDC/EURcのMiCA準拠状況、Bitpanda・Bitstamp・Kraken等主要事業者の動向、日本居住者の欧州ETP活用と国外財産調書の実務まで整理。
読み物パート|MiCA施行後1年9ヶ月で変わった欧州暗号市場
欧州連合の「暗号資産市場規制法(Markets in Crypto-Assets Regulation, MiCA)」が完全施行されたのは2024年12月30日。それから約1年4ヶ月を経た2026年4月時点で、欧州の暗号資産市場はMiCA以前と別物になった。MiCAはEU域内で活動する全ての暗号資産サービスプロバイダー(Crypto-Asset Service Provider, CASP)にライセンス取得を義務化し、ステーブルコイン発行体には新たな資本・リザーブ要件を課した。2026年4月時点でEU全体で認可を取得したCASPは約165社、うちドイツが42社、フランスが24社、オランダが19社、スペインが17社、リトアニアが14社という構図である。
MiCAの最大の特徴は「パスポート制度」で、1国で認可を得れば全EU加盟27ヶ国で事業展開が可能となる点にある。これにより、Bitpanda(オーストリア本社、ドイツBaFin認可)、Bitstamp(ルクセンブルク本社)、Coinbase Germany(ドイツBaFin認可)、N26(ドイツBaFin認可)、Kraken(アイルランド中銀認可)といった主要事業者が、EU27ヶ国で単一ライセンスで営業するモデルが確立された。日本の暗号資産交換業者登録(金融庁管轄)が国内完結であるのに対し、MiCAは「EU全域の単一市場」を目指す制度設計となっている。
ステーブルコイン規制は特に厳格である。MiCAは暗号資産を(1)ユーティリティトークン、(2)資産参照型トークン(Asset-Referenced Token, ART)、(3)電子マネートークン(E-Money Token, EMT)の3区分に分け、ARTとEMTには発行体ごとの資本金要件、リザーブ資産の100%裏付け、流通量上限(ARTは最大2億ユーロ/日、EMTは最大1億ユーロ/日の取引量超で追加規制)、発行体の信用格付け開示などを義務化した。
この結果、USDC(Circle発行)は2024年11月にEU向けの別法人(Circle Mint Europe SAS)をフランスで設立しEMT認可を取得、2025年には完全にMiCA準拠となった。一方、USDT(Tether)はMiCA準拠を見送り、主要EU取引所ではUSDTの新規取扱が2025年第1四半期以降停止された。代替としてEURe(Monerium発行、ユーロ建てEMT)やEURC(Circle発行、ユーロ建てEMT)がEU域内でシェア拡大している。
日本居住者としては、ドイツBaFinやフランスAMFの監督下にある欧州取引所を利用する際の税制上のポイント、本人認証(KYC)要件、国境を越えた取引の申告義務が論点となる。本稿ではMiCA施行後の欧州暗号市場の実態と、日本居住者視点での実務を整理する。
データパート|主要指標の実数値
EU加盟国別CASP認可取得状況(2026年4月時点)
| 国 | 監督当局 | 認可取得数 | 主要認可先 |
|---|---|---|---|
| ドイツ | BaFin | 42社 | Bitpanda、Coinbase Germany、N26、Bison Bank、BSDEX |
| フランス | AMF | 24社 | Coinhouse、Circle Mint Europe、Binance France、StackinSat |
| オランダ | AFM | 19社 | Bitvavo、BTC Direct、Anycoin Direct |
| スペイン | CNMV | 17社 | Bit2Me、Bitnovo、Bitpanda ES |
| リトアニア | BoL | 14社 | CoinGate、PayBis、Bankera |
| ルクセンブルク | CSSF | 11社 | Bitstamp、Bakkt Europe |
| アイルランド | CBI | 9社 | Kraken、Gemini Europe |
| エストニア | FSA | 8社 | CoinsPaid、Gate.io Europe |
| マルタ | MFSA | 7社 | OKX Europe、Crypto.com Malta |
| その他(18ヶ国合計) | - | 24社 | - |
| EU合計 | - | 165社 | - |
主要欧州取引所の取扱銘柄とサービス
| 取引所 | 本拠地 | MiCAライセンス | 主要通貨 | ステーキング | 日本居住者利用 |
|---|---|---|---|---|---|
| Bitpanda | オーストリア | BaFin(DE) | BTC/ETH/SOL/EURe | ETH等15銘柄 | 限定可(KYC審査) |
| Bitstamp | ルクセンブルク | CSSF | BTC/ETH等70銘柄 | 10銘柄 | 限定可 |
| Kraken | アイルランド | CBI | BTC/ETH等200銘柄 | 18銘柄 | 可(英語対応) |
| Bitvavo | オランダ | AFM | BTC/ETH等180銘柄 | 15銘柄 | 限定可 |
| Coinbase Germany | ドイツ | BaFin | BTC/ETH等150銘柄 | 12銘柄 | 可(日本法人経由) |
| N26 | ドイツ | BaFin | BTC/ETH等20銘柄 | なし | 不可(EU居住者限定) |
欧州ステーブルコインのMiCA区分と現状
| 銘柄 | 発行体 | 区分 | EU内流通量 | MiCA準拠 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| USDC | Circle Mint Europe(FR) | EMT | 約68億ユーロ | 準拠済 | 2025年1月完全移行 |
| EURC | Circle Mint Europe(FR) | EMT | 約6.2億ユーロ | 準拠済 | ユーロ建て拡大中 |
| EURe | Monerium(アイルランド) | EMT | 約1.8億ユーロ | 準拠済 | オンチェーンSEPA統合 |
| USDT | Tether Holdings | ART | 約0億ユーロ(停止中) | 非準拠 | EU取引所で取扱停止 |
| PYUSD | PayPal/Paxos | EMT | 約3億ユーロ | 準拠済 | 2025年12月承認 |
| GHO | Aave Companies | ART | 約8,000万ユーロ | 準拠申請中 | 分散型発行の解釈論争 |
| crvUSD | Curve Finance | - | - | 申請なし(EU撤退) | - |
ARTとEMTの規制要件比較
| 項目 | ART(資産参照型) | EMT(電子マネー型) |
|---|---|---|
| 参照資産 | 複数資産(通貨バスケット等) | 単一通貨(USD/EUR等) |
| 最低資本金 | 35万ユーロ or 総資産の2% | EMI免許相当(35万ユーロ〜) |
| リザーブ要件 | 100%裏付け(現金・短期国債) | 100%裏付け(EU銀行預金等) |
| 流通量上限 | 2億ユーロ/日超で追加規制 | 1億ユーロ/日超で追加規制 |
| 発行体所在地 | EU域内 | EU域内(EMI免許必須) |
| 監督当局 | EBA + 各国当局 | EBA + 各国当局 |
EU主要国の暗号資産保有率(個人)
| 国 | 保有率(2023年) | 保有率(2025年) | MiCA施行後の変化 |
|---|---|---|---|
| ドイツ | 4.2% | 7.8% | 大手銀行参入で拡大 |
| フランス | 3.8% | 6.4% | 税制明確化で購入増 |
| オランダ | 5.1% | 8.2% | Bitvavo等の普及 |
| スペイン | 3.2% | 5.1% | - |
| イタリア | 2.9% | 4.8% | - |
| スウェーデン | 4.7% | 7.1% | - |
| EU平均 | 3.8% | 6.2% | +2.4%ポイント拡大 |
欧州主要暗号資産ETF/ETP(MiCA施行後の拡大)
| 商品名 | 発行体 | 上場取引所 | AUM | 基礎資産 | 経費率 |
|---|---|---|---|---|---|
| WisdomTree Physical Bitcoin | WisdomTree | 独・伊・仏・スイス | 約22億ユーロ | BTC | 0.35% |
| 21Shares Bitcoin Core ETP | 21Shares | 独・スイス | 約14億ユーロ | BTC | 0.21% |
| CoinShares Physical Bitcoin | CoinShares | 独・伊・仏 | 約9億ユーロ | BTC | 0.25% |
| ETC Group Physical Bitcoin | ETC Group | 独・英 | 約8億ユーロ | BTC | 0.49% |
| 21Shares Ethereum Staking ETP | 21Shares | 独・スイス | 約5.4億ユーロ | ETH(ステーク) | 0.35% |
| VanEck Bitcoin ETN | VanEck | 独・英 | 約3.8億ユーロ | BTC | 1.00% |
日本居住者視点の実務|税制・証券会社・NISA活用
欧州取引所利用時の日本税制の扱い
日本居住者が欧州取引所(Bitpanda、Bitstamp、Kraken等)で暗号資産を売買した場合、発生した損益は日本の税制下で**雑所得(総合課税)**として扱われる。これは取引所が海外にあるか日本にあるかを問わず、日本居住者の全世界所得に対する課税原則による。年間利益が20万円を超える場合は確定申告が必要で、所得税5%〜45% + 住民税10%が適用される(年収に応じ最大55%)。
欧州取引所での取引の場合、国別の申告義務(現地源泉税の発生)は原則ないが、「国外財産調書」の提出義務に注意が必要である。年末時点の国外にある暗号資産(取引所カストディ含む)評価額が5,000万円を超える場合、翌年6月末までに国外財産調書を提出しなければならない(不提出は加算税5%増しのペナルティ)。欧州取引所を使う富裕層は、ほぼ確実にこの対象となるため、残高管理が実務上の論点となる。
欧州スポット暗号資産ETP/ETNを日本から買う選択肢
MiCA施行後の欧州では、XETRA(ドイツ)、SIX(スイス)、Euronext(仏蘭)等にビットコイン・イーサリアム・アルトコイン系の物理型ETP(Exchange-Traded Product)が多数上場している。これらは金融商品取引法上「外国籍ETN」として分類されることが多く、日本の証券会社での取扱は限定的だが、**IG証券・サクソバンク証券・インタラクティブ・ブローカーズ(IBKR)**経由でアクセス可能な商品がある。
| 証券会社 | 欧州ETP取扱 | 21Shares系 | WisdomTree系 | 取引コスト |
|---|---|---|---|---|
| SBI証券 | なし | - | - | - |
| 楽天証券 | なし | - | - | - |
| IG証券 | 限定対応 | 主要5銘柄 | 主要3銘柄 | スプレッド0.1% |
| サクソバンク証券 | 対応 | 主要15銘柄 | 主要8銘柄 | 手数料0.08% |
| Interactive Brokers | 対応 | 全銘柄 | 全銘柄 | 手数料0.02%相当 |
ただし、これらのETPは米国スポットBTC ETFと異なり、NISA成長投資枠の対象外である点は重要だ。NISA口座で欧州ETPを買い付けることは原則できず、欧州ETPを買いたい場合は特定口座または一般口座での取扱となる。このため、現状の日本居住者にとっては米国上場のIBIT・FBTC等のほうがNISA活用面で優位性があり、欧州ETPは「銘柄の多様性(SOL・ADA・DOT等のアルトコイン)」を求める場合の選択肢となる。
欧州ステーブルコインと資金管理
EUR建てステーブルコイン(EURe、EURC)は、MiCA準拠のEMTとして欧州取引所での取扱が定着しつつある。ただし日本居住者がこれらを保有する場合、(1)日本の銀行から欧州取引所への送金に海外送金手数料が発生する、(2)為替リスク(JPY→EUR→ステーブルコイン→元の通貨)が2度生じる、(3)日本の外国為替及び外国貿易法上の「支払等の報告」に該当する場合がある、という3点の論点がある。
富裕層の場合、欧州ステーブルコインは「EU域内の不動産購入や事業投資のための一時的な資金プール」として使われるケースが主で、純粋なトレーディング目的で日本居住者が大量保有するケースは少数派である。
国外転出時課税(出国税)との関係
年末時点の有価証券等(暗号資産を含むかどうかは現在も解釈論争中)の評価額が1億円を超える個人が日本から出国する場合、「国外転出時課税(出国税)」により含み益に対して課税される。欧州移住(ドイツ、ポルトガル、マルタ等は暗号資産税制が日本より有利)を検討する富裕層にとっては、出国前のBTC/ETH含み益の扱いが重要な論点となる。2025年以降、暗号資産も出国税の対象とする方向での税制改正議論が進んでいるため、今後の制度変更に注意が必要である。
まとめ|編集部の視点
MiCAの完全施行から1年4ヶ月、欧州の暗号資産市場はCASP165社・ステーブルコイン二極化・ETP市場拡大という3つの構造変化を遂げた。EU全域で単一ライセンスにより事業展開できる「パスポート制度」は、日本の国内完結型ライセンス制度とは対照的なアプローチで、機関投資家・小売投資家双方にとってのアクセシビリティを劇的に改善している。
日本居住者にとっての欧州市場の意義は、(1)米国ETFではカバーされないアルトコインに物理型ETPでアクセスできる、(2)EUR建ての暗号資産取引により米ドル依存から分散できる、(3)MiCA準拠の厳格な監督下にある取引所の利用でコンプライアンスリスクを低減できる、という3点に整理される。一方で、NISA成長投資枠が使えない、国外財産調書の提出義務、海外送金手数料という実務コストが存在するため、あくまで「米国ETF中心 + 欧州ETPでアルトコイン補完」という組合せが実務的な解となる。
ステーブルコイン規制についても、USDT排除・USDC/EURc優位という現状は当面続く見込みで、EU域内での暗号決済・DeFi利用はますますMiCA準拠ステーブルコイン中心に収斂していく。日本居住者がEUでのクロスボーダー投資・事業活動を計画する場合、EURe/EURCの活用とMiCA準拠プロバイダーの選定が標準ルートとなる。
最後に、2026年後半に向けた論点として「MiCAレベル2規制の段階的施行」と「DeFiへの規制拡大可能性」を挙げておく。現時点でMiCAはDeFiプロトコルを直接の規制対象としていないが、2026年中に欧州委員会がDeFi規制に関する報告書を公表予定で、Aave、Uniswap、Curve等のEU内ユーザー向けサービスに何らかの制約が課される可能性がある。富裕層投資家としては、集中型取引所中心の投資戦略を基本としつつ、DeFi活用は慎重な制度監視のもとで行うという姿勢が、当面の安全策となる。
出典・参照
- European Securities and Markets Authority(ESMA): MiCA Implementation Report 2025
- European Banking Authority(EBA): Guidelines on ART/EMT Requirements
- Circle Internet Financial: EURC and USDC MiCA Compliance Statement
- Bitpanda: Annual Transparency Report 2025
- Bitstamp: MiCA Readiness White Paper
- 国税庁: 国外財産調書制度の概要
- 財務省: 国外転出時課税制度の解説
- WisdomTree Europe: Digital Asset Research Q1 2026
- 21Shares: European Crypto ETP Market Report
- Kraken: Market Report Q4 2025(欧州市場)
- European Commission: Markets in Crypto-Assets Regulation Text(Regulation (EU) 2023/1114)
- Deloitte EMEA: MiCA Impact Assessment on European Banking Sector