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スイス不動産成長率|チューリッヒ+12.5%の急騰とLex Kollerが作る「供給制約プレミアム」
為替レート:1CHF=約170円換算
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読み物パート
スイス不動産は「値上がり続ける」構造を持つ
スイス不動産の価格推移を長期でみると、リーマンショック後も一度も本格的な調整局面を経験しておらず、過去15年間ほぼ一貫して上昇している。この特異な耐久性の背景には、①供給制約(Lex Kollerと厳格な建築規制)、②需要の構造的拡大(人口流入+富裕層移住)、③超低金利、④CHFという最強通貨——の4要素が揃っている。
2025年Q3時点で、全国平均住宅価格は前年比1〜3%台の上昇。一見穏やかな数字だが、特定地域では顕著な突出が見られる。最大のホットスポットはチューリッヒで、アパートメントの㎡単価は前年比12.5%という急騰を記録した。これは平均住宅価格1億円超の市場での10%上昇であり、絶対値ベースでの価値増加は膨大である。
2026年の価格予測
UBSは2026年の全国住宅価格を名目3%上昇と予測。Engel & Völkers、Investropa等の民間調査機関も、2026年の価格上昇を3〜4.5%と見積もっている。
都市別に見ると:
- チューリッヒ:2025年の急騰を受け、2026年は3〜5%とやや減速しつつも継続上昇
- ジュネーブ:アパートで2〜4%、一戸建てで1〜3%の上昇予測。既に高水準のため伸びは全国平均よりやや低い
- ローザンヌ/レマン湖圏:2〜4%、教育・IOC・国際機関需要で底堅い
- バーゼル:2〜3%、製薬セクターの動向次第
- ツーク:3〜5%、法人税優遇で富裕層流入継続
- ティチーノ(ルガーノ等):1〜3%、イタリア系・富裕層の避難先として堅調
Lex Kollerが作り出す「人工的な希少性」
スイス不動産市場の成長率を根本から規定しているのがLex Koller法である。この法律は、外国人非居住者の住宅購入を年間約1,500戸のクォータで制限し、しかも購入可能エリアを限定リゾート地のみに絞っている。
結果として、スイスの主要都市(チューリッヒ、ジュネーブ、バーゼル)のプライム住宅は、事実上「スイス居住者+居住ビザ保持者」だけが買える市場となり、外国マネーの洪水的流入を防いでいる。これは一見「価格を抑える」方向に見えるが、実際にはスイス居住の高所得層・富裕層が安定的に買い支える結果、価格のボラティリティが抑制され、長期安定上昇のトレンドが形成される。
2026年7月15日まで、Lex Koller改正案のパブリックコメント期間となっている。改正の方向性は「さらなる厳格化」であり、商業不動産(賃貸目的の多世帯住宅等)への制限拡大が議論されている。この改正が成立すれば、住宅供給はさらに絞られ、価格上昇圧力は強まる見通し。
空室率1%の意味
スイス全国の空室率は2025年に1.0%まで低下した。これは「理論的な摩擦空室率」に近く、実質的にほぼゼロに等しい。新規入居者はウェイティングリストに並ぶのが常態化し、優良物件では内覧申込者が100人を超えることも珍しくない。
この超タイトな需給環境は、賃料の継続的上昇(年2〜3%)と、購入意欲の高止まりを同時にもたらし、投資家にとっては「空室リスクほぼゼロ」という他国にはない優位性を生む。
リスクシナリオ
UBSは住宅バブル指数で、チューリッヒ、ジュネーブ、一部リゾート地を「過熱リスクあり」と評価。ただし全体のバブルリスクは「中程度」にとどまる。シナリオ別リスクは以下の通り:
- 軽度の経済減速(最高確率):価格上昇率が1〜2%程度まで減速
- 住宅ローン規制強化:LTV引き下げや所得ルール厳格化で購入力減少
- セカンドホーム市場の急落:観光需要低下でリゾート地が先に調整
データパート
主要都市の価格成長率(2025年実績/2026年予測)
| 都市 | 2025年(実績) | 2026年(予測) | ㎡単価(2025Q3) |
|---|---|---|---|
| チューリッヒ(アパート) | +12.5% | +3〜5% | 18,909CHF(約321万円) |
| ジュネーブ(アパート) | +3.4% | +2〜4% | 20,960CHF(約356万円) |
| バーゼル(アパート) | +2〜3% | +2〜3% | 約11,000CHF |
| ローザンヌ(アパート) | +2〜4% | +2〜4% | 約14,500CHF |
| ツーク(アパート) | +4〜6% | +3〜5% | 約15,500CHF |
| ベルン(アパート) | +1〜2% | +1〜2% | 約9,500CHF |
| ティチーノ/ルガーノ | +1〜3% | +1〜3% | 約9,000CHF |
| 全国平均 | +1.83%(年率) | +3.0%(名目) | 約9,200CHF |
一戸建て平均取引価格(2025年Q3)
| 地域 | 平均価格(CHF) | 円換算 |
|---|---|---|
| 全国平均 | 1,250,000 | 約2億1,250万円 |
| チューリッヒ | 4,368,000 | 約7億4,256万円 |
| ジュネーブ | 3,292,000 | 約5億5,964万円 |
| レマン湖岸(ヴォー州) | 約2,500,000 | 約4億2,500万円 |
| バーゼル市 | 約1,800,000 | 約3億600万円 |
| ツーク州 | 約2,800,000 | 約4億7,600万円 |
長期価格推移(全国住宅価格インデックス)
| 年 | インデックス(2010=100) | 年間騰落率 |
|---|---|---|
| 2010 | 100 | ― |
| 2015 | 122 | 約+4%/年 |
| 2020 | 138 | 約+2.5%/年 |
| 2022 | 150 | +5.4% |
| 2023 | 154 | +2.7% |
| 2024 | 157 | +1.9% |
| 2025 | 160 | +1.83% |
| 2026(予測) | 165 | +3.0% |
空室率と需給指標
| 項目 | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|---|
| 全国空室率 | 1.15% | 1.08% | 1.0% |
| チューリッヒ市空室率 | 0.07% | 0.06% | 0.06% |
| ジュネーブ州空室率 | 0.46% | 0.50% | 0.48% |
| 新築許可件数(全国) | 約45,000戸 | 約43,000戸 | 約42,000戸 |
| 人口増加数(年間) | +96,000人 | +83,000人 | +108,000人予測 |
Lex Koller関連制限の現状
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 外国人非居住者の住宅購入 | 原則禁止、例外は休暇用住宅のみ |
| 年間全国クォータ | 約1,500戸 |
| 購入可能物件の上限 | 200〜250㎡(土地1,000㎡以内) |
| 購入可能地域 | 指定リゾート州のみ(ヴァレー、グラウビュンデン、ヴォー、ベルン等16州) |
| 都市部住宅購入 | 居住ビザB/C保持者のみ可能 |
| 改正案パブコメ期限 | 2026年7月15日 |
総合リターン試算(2026年購入→2030年売却想定)
| シナリオ | 年間価格上昇 | 総利回り | 4年間総リターン | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 強気 | +4% | +2.8% | 約+27% | 需給タイト継続 |
| 基本 | +3% | +2.5% | 約+22% | UBS予測ベース |
| 弱気 | +1% | +2.0% | 約+12% | 景気減速シナリオ |
| ストレス | -2% | +1.5% | -2%〜±0% | ローン規制強化 |
出典
- UBS: Price developments on the real estate market 2025
- Global Property Guide: Switzerland Residential Property Market Analysis 2025
- Investropa: Switzerland Property Price Forecasts 2026
- Investropa: Switzerland Housing Prices 2026
- Investropa: Geneva Real Estate Market Analysis 2026
- Investropa: Zurich Property Price Forecasts 2026
- Engel & Völkers: Real estate prices Switzerland Forecast 2026
- Houzy Magazine: Swiss Property Market Forecast 2026
- SWI swissinfo.ch: Swiss government to tighten foreign property ownership