コモディティシリーズ 第2回
銀・プラチナのポートフォリオ分散|産業需要と貴金属投資の実務
太陽光パネル向け銀需要230百万オンス、EV化で転換するプラチナ触媒需要を整理。金/銀レシオ95倍の割安シグナルと、SLV・PPLTを含めた日本居住者のアクセス経路を検討。
読み物パート|銀とプラチナは「ゴールドの弟分」ではなく、産業需要に駆動される独自資産
金・銀・プラチナは一括りに「貴金属」と呼ばれるが、需要構造は根本的に異なる。2025年のデータで見ると、金の需要の約45%は宝飾・投資・中央銀行購入で、工業用途は約7%に留まる。一方、銀は総需要1,200百万オンスのうち約55%が工業用途(太陽光パネル、電子部品、EV)であり、プラチナは総需要810万オンスのうち約75%が自動車触媒と産業用途(化学・電子)で占められている。要するに、銀とプラチナは「金の値動きに連動する貴金属」というより、「景気循環と産業テーマに左右される資源コモディティ」として理解した方が実態に近い。
2026年4月時点で、銀価格は1オンス34ドル前後、プラチナ価格は1,050ドル前後で推移している。金/銀レシオ(金価格 ÷ 銀価格)は約95倍と、歴史的な平均(60〜80倍)から見ると依然として銀が金に対して割安に見える水準にある。金/プラチナレシオは約3.1倍で、2021年前の歴史的平均(0.7〜1.2倍)からは大きく乖離しており、プラチナが金に対して歴史的な割安水準にある。ただしこの「割安」を素直に解釈すべきでないのは、銀とプラチナの需要構造が過去30年で変質してきたからである。
銀は2020年以降、太陽光発電パネルの生産拡大で工業需要が急増した。1GWの太陽光発電設備あたり約50万オンスの銀が使われ、2025年の世界太陽光設置容量は約450GWと推計され、太陽光向け銀需要だけで約230百万オンスに達した。これは世界の銀鉱山供給(年間約830百万オンス)の約28%を占める計算になる。電気自動車(EV)とバッテリー材料向けの銀需要も伸びており、これが銀の需給構造を構造的にタイトにしている。他方、プラチナは主要用途だった内燃機関自動車の排ガス触媒需要が、EVシフトで中長期的に縮小する逆風にある。ただしプラチナはハイブリッド車・ディーゼル車・水素燃料電池の触媒需要があり、特に水素経済の拡大と歩調を合わせて新たな需要源が出てきている。
富裕層日本居住者にとって銀・プラチナをポートフォリオに組み入れる論点は2つに分かれる。第一に、金と比べて工業需要が大きい分ボラティリティが高く(過去3年の年率ボラティリティで銀30%超、プラチナ25%、金18%程度)、単独で配分を増やすのは向かない。第二に、税制上は金と同じ総合課税(現物保有の場合)または申告分離課税(ETFの場合)で扱われるが、国内のETFラインナップが金に比べて貧弱で、事実上は海外ETF(SLV、PPLT)か田中貴金属等の国内現物保有に選択肢が集中する。
データパート|主要指標の実数値
銀価格の長期推移(年末値、USD/oz)
| 年 | 銀価格(USD/oz) | 年間騰落率 | 金/銀レシオ(年末) |
|---|---|---|---|
| 2015 | 13.8 | -11.7% | 76.8 |
| 2018 | 15.5 | -8.5% | 82.7 |
| 2019 | 17.8 | +14.8% | 85.2 |
| 2020 | 26.4 | +48.3% | 71.9 |
| 2021 | 23.3 | -11.7% | 78.5 |
| 2022 | 24.0 | +3.0% | 76.0 |
| 2023 | 23.8 | -0.8% | 86.7 |
| 2024 | 29.0 | +21.8% | 90.5 |
| 2025 | 32.5 | +12.1% | 95.5 |
| 2026年3月末 | 34.2 | +5.2% | 94.7 |
プラチナ価格の長期推移(年末値、USD/oz)
| 年 | プラチナ価格(USD/oz) | 年間騰落率 | 金/プラチナレシオ |
|---|---|---|---|
| 2015 | 870 | -26.1% | 1.22 |
| 2018 | 795 | -14.2% | 1.61 |
| 2019 | 970 | +22.0% | 1.56 |
| 2020 | 1,075 | +10.8% | 1.77 |
| 2021 | 965 | -10.2% | 1.90 |
| 2022 | 1,080 | +11.9% | 1.69 |
| 2023 | 995 | -7.9% | 2.07 |
| 2024 | 945 | -5.0% | 2.78 |
| 2025 | 1,040 | +10.1% | 2.99 |
| 2026年3月末 | 1,055 | +1.4% | 3.07 |
銀の需要構造(2025年)
| 用途 | 需要量(百万oz) | 総需要シェア |
|---|---|---|
| 工業用途(太陽光、電子) | 710 | 59% |
| 宝飾・銀器 | 215 | 18% |
| 投資(コイン・バー) | 190 | 16% |
| 写真・その他 | 85 | 7% |
| 合計 | 1,200 | 100% |
プラチナの需要構造(2025年)
| 用途 | 需要量(万oz) | 総需要シェア |
|---|---|---|
| 自動車触媒 | 350 | 43% |
| 宝飾 | 175 | 22% |
| 工業(化学・電子・ガラス) | 155 | 19% |
| 投資 | 85 | 10% |
| 水素燃料電池 | 45 | 6% |
| 合計 | 810 | 100% |
代表的な銀・プラチナETFの比較
| ETF | 連動先 | 運用会社 | 純資産 | 経費率 | 保管形態 |
|---|---|---|---|---|---|
| SLV(iShares Silver Trust) | 銀現物 | BlackRock | 約140億ドル | 0.50% | ロンドン保管庫 |
| SIVR(abrdn Physical Silver) | 銀現物 | abrdn | 約12億ドル | 0.30% | スイス保管庫 |
| 1542(国内銀ETF) | 銀現物 | 三菱UFJ信託 | 約280億円 | 0.55% | 東証上場、国内現物 |
| PPLT(abrdn Physical Platinum) | プラチナ現物 | abrdn | 約13億ドル | 0.60% | スイス保管庫 |
| PLTM(GraniteShares Platinum) | プラチナ現物 | GraniteShares | 約3.5億ドル | 0.50% | 保管庫 |
| 1541(国内プラチナETF) | プラチナ現物 | 三菱UFJ信託 | 約90億円 | 0.55% | 東証上場 |
日本での銀・プラチナ取扱い業者
| 業者 | 銀地金 | 銀積立 | プラチナ地金 | プラチナ積立 |
|---|---|---|---|---|
| 田中貴金属 | ○(500g、1kg〜) | ○(月3,000円〜) | ○(10g、100g、1kg〜) | ○ |
| 三菱マテリアル | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 石福金属興業 | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 徳力本店 | ○ | 限定的 | ○ | 限定的 |
主要銀鉱山・プラチナ鉱山企業
| 銘柄 | 国 | 主要金属 | 時価総額 | 配当利回り |
|---|---|---|---|---|
| Pan American Silver(PAAS) | カナダ | 銀・金 | 約65億ドル | 1.6% |
| Wheaton Precious Metals(WPM) | カナダ | 銀ストリーミング | 約280億ドル | 1.1% |
| First Majestic Silver(AG) | カナダ | 銀 | 約20億ドル | 0.5% |
| Anglo American Platinum(Amplats) | 南アフリカ | プラチナ | 約110億ドル | 4.2% |
| Sibanye Stillwater(SBSW) | 南アフリカ | プラチナ・パラジウム | 約55億ドル | 3.8% |
| Impala Platinum(IMPUY) | 南アフリカ | プラチナ | 約45億ドル | 3.5% |
銀・プラチナと他資産の相関(2021-2025年60カ月月次リターン)
| 組み合わせ | 相関 |
|---|---|
| 銀 vs 金 | 0.74 |
| プラチナ vs 金 | 0.52 |
| 銀 vs S&P500 | 0.21 |
| プラチナ vs S&P500 | 0.32 |
| 銀 vs 銅(LME) | 0.58 |
| プラチナ vs 原油(WTI) | 0.38 |
| 銀 vs 太陽光ETF(TAN) | 0.35 |
日本居住者視点の実務|税制・証券会社・運用戦略
銀・プラチナの税制整理
銀・プラチナの現物(地金・コイン)および積立の譲渡益は、金と同じく総合課税の譲渡所得として扱われる。保有期間5年以下は短期譲渡で全額算入、5年超は長期譲渡で譲渡益の2分の1が総所得に算入され、累進税率(所得税5〜45% + 住民税10%)が適用される。年間50万円の特別控除(他の譲渡所得と合算)も金と共通で使える。
銀・プラチナETF(国内上場1542、1541、海外上場SLV、PPLT)の譲渡益は、株式と同じ申告分離課税20.315%となる。同じ銀価格エクスポージャーを取るにしても、現物積立なら総合課税、ETFなら分離課税で、税負担が大きく変わる。所得税最高ブラケット(合計55%)の富裕層では、ETF選択による税負担軽減メリットが大きい。
銀・プラチナETFも金ETFと同様に分配金は原則発生しない。一方、銀鉱山株・プラチナ鉱山株(Pan American Silver、Amplats等)は配当が出るため、配当所得として米国または英国源泉(銘柄による)と日本20.315%の二重課税になる。鉱山株はインカムと株式的な値動きの両方を取れるが、金属価格エクスポージャーとしては純粋ではない。
NISA枠での扱い
NISA成長投資枠では、国内上場の銀ETF(1542)、プラチナETF(1541)、海外上場のSLV、PPLTの多くが対象となる(各証券会社の取扱いによる)。銀・プラチナ鉱山株も大部分がNISA対象。ただし現物積立(純銀積立、プラチナ積立)はNISA対象外。
証券会社での取扱い
| 証券会社 | 国内銀ETF(1542) | 国内プラチナETF(1541) | SLV(海外) | PPLT(海外) | 鉱山株 |
|---|---|---|---|---|---|
| SBI証券 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 楽天証券 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| マネックス証券 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 野村證券 | ○ | ○ | 一部投信経由 | 一部投信経由 | ○ |
ポートフォリオ内での位置づけ
銀・プラチナは金の「ボラティリティ高めのバージョン」ではなく、それぞれに異なる需要構造を持つ独立した資産として扱うのが実務的に見通しが良い。金との相関は銀0.74、プラチナ0.52と、特にプラチナは金とは違う値動きをする場面が増えている。
目安として、貴金属全体を資産の5〜10%と決めた場合、(1)金を7〜8割(コア)、(2)銀を1〜2割(太陽光テーマへのサテライト)、(3)プラチナを0.5〜1割(水素経済・割安バリュー)、というアロケーションは分散性の観点で選択肢として考えられる。銀・プラチナの単独配分を大きくすると、貴金属バケット全体のボラティリティが金単独比で1.5倍程度に上がる点は織り込む必要がある。
鉱山株(PAAS、AG、Amplats等)を組み入れる場合は、金属価格エクスポージャーの補完というより「企業価値 + レバレッジ効果」という性格で理解すべきである。コスト管理・鉱山所在国のカントリーリスク(南アフリカの電力供給問題、南米の左派政権リスク等)・為替・配当方針が個別要因として効くため、ETFの代替にはならず、別バケット(株式)扱いで管理する方が混乱しない。
保管コスト・流動性の実務
銀の現物保有は、金と比べて「価格あたりの重量が大きい」という実務的制約がある。1kgの銀は2026年4月時点で約17万円(1g170円換算)だが、同じ1kgの金は約1,680万円(1g16,800円)。同じ金額を銀で保有すると約100倍の重量になり、保管スペース・保管料・輸送費・保険費用が相対的に重くなる。これが銀の現物保有を投資手段として使いにくくする主因であり、銀エクスポージャーはETF(1542、SLV)で取る方が現実的という結論に落ちることが多い。
プラチナの保管は金に近い感覚で可能だが、国内の二次流通市場(買取店)の規模が金より小さく、売却時のスプレッドが広くなりやすい。大口の売却は田中貴金属・三菱マテリアル等の元売業者への直接売却が実務的である。
まとめ|編集部の視点
銀とプラチナは、金と同じ貴金属カテゴリに属しながら、需要構造・ボラティリティ・税制実務の3点で金とは別に管理すべき資産である。2026年時点での構造としては、銀は太陽光パネル生産と電子部品需要で工業需要が継続的にタイトになっている一方、プラチナは内燃機関触媒需要の構造的縮小と水素経済・ハイブリッド需要の新規拡大が綱引き状態にある。
日本居住者の富裕層にとっての配分の論点は、「ボラティリティの高さ」と「国内投資手段の限られた選択肢」の2点に集約される。銀は年率ボラティリティ30%超と株式より高く、単独配分を大きくするとポートフォリオ全体の変動幅が広がる。プラチナも25%前後とやや低めだがそれでも高い。加えて現物保有は重量・保管料の観点で銀が特に不利であり、エクスポージャーはETF(1542、SLV、1541、PPLT)で取る方が実務的に管理しやすい。
具体的なアクションとしては、(1)貴金属全体の配分(例:資産の8%)を先に決める、(2)そのうち金を7割・銀を2割・プラチナを1割と分解する、(3)銀はSLVまたは1542、プラチナはPPLTまたは1541でエクスポージャーを取り、現物保有は金に集中する、(4)太陽光発電の世界的普及や水素経済の進展を観察しながら、銀・プラチナの比率を年1回程度見直す、という4段階の構成が選択肢として考えられる。
注意点としては、銀・プラチナは「工業コモディティとしての需要変動」の影響を強く受けるため、景気後退局面では金より下げが大きい。2008年リーマンショック時、2020年コロナショック初期の銀価格は一時30%以上下落した。金の「危機ヘッジ」的な役割を期待して銀・プラチナを代用すると、期待と実際のリターンが逆方向になる可能性がある。
最後に、鉱山株は「金属価格のレバレッジ」ではあるが、企業価値・カントリーリスク・配当方針が重なる別資産である。銀・プラチナ価格そのものへのエクスポージャーを取る手段としてETFと鉱山株は代替にならず、それぞれ独立した位置づけで扱うことが、リスク管理上の見通しを良くする。
出典・参照
- The Silver Institute "World Silver Survey 2026"
- World Platinum Investment Council "Platinum Quarterly Q1 2026"
- Johnson Matthey "PGM Market Report 2026"
- LBMA 銀・プラチナ価格データ(2026年3月)
- 田中貴金属工業「プラチナ・銀相場情報」(2026年4月)
- 三菱マテリアル「貴金属価格」
- iShares Silver Trust(SLV)Fund Documents
- abrdn Physical Platinum Shares(PPLT)Fund Documents
- Pan American Silver、Anglo American Platinum 決算資料(2025年通期)
- 国税庁「譲渡所得の計算」