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米国バイオテック投資戦略:<strong>Eli Lilly・Vertex・Moderna</strong>を軸とした次世代医薬の地政学
GLP-1市場の覇者Eli Lillyを筆頭に、嚢胞性線維症フランチャイズのVertex、mRNA基盤のModernaの3社を比較。2026年4月の時価総額・パイプライン・配分例を詳述し、NISA成長投資枠と外国税額控除の実務まで網羅した米バイオ投資ガイド。
読み物パート
2026年4月、米国バイオテックセクターは2024年から続いた金利の高止まりと2025年後半のFRB方針転換を経て、再び成長株として再評価される局面に入っている。米10年債利回りが4.4%付近で安定し、S&P 500は5,800台、ナスダック総合は18,200付近で推移するなか、長期金利の低下期待を背景にバイオテック指数(IBB、XBI)はYTDで14%超のリターンを記録。マクロ的にはディスインフレと金融政策正常化の流れが、研究開発に長期資金が必要な業界へと再びリスクマネーを呼び戻している。
この物語の中心にいるのが、肥満症治療薬「Mounjaro」「Zepbound」で世界市場を席巻するEli Lilly(LLY)、嚢胞性線維症のフランチャイズに加え遺伝子治療「Casgevy」をVertex Pharmaceuticals(VRTX)が拡大、そしてmRNA基盤を肥満・がん領域に拡張するModerna(MRNA)である。GLP-1市場は2030年までに1,500億ドル規模に達するという複数のリサーチが流通しており、Eli Lillyの時価総額は2026年4月時点で7,800億ドルを超え、米製薬最大手として君臨している。一方、Vertexは時価総額1,150億ドル、Modernaは過去のCOVIDワクチン特需後の調整を経て560億ドル付近で底打ちサインを示している。
東京から見るバイオテック投資の意義は二つある。第一に、円安基調(USD/JPY 152)と国内ヘルスケア銘柄の研究開発投資の停滞を踏まえ、ドル建てで成長余地のある米バイオに分散することは円資産偏重の解消に直結する。第二に、日本の特定口座やNISA成長投資枠で個別米株を保有する個人投資家が2025年から急増しており、配当を狙うアリストクラット路線とは別軸で「無配当・高成長」のバイオテックを組み込む需要が高まっている。本稿では、3社のビジネスモデル、競合関係、ポートフォリオ組成、日本の税務実務までを2026年4月時点の数値で整理する。
データパート
2026年4月25日時点のスナップショットを以下にまとめる。
| 銘柄 | ティッカー | 株価 | 時価総額 | PER(実績) | PER(予想) | 配当利回り | YTD騰落率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Eli Lilly | LLY | $865 | 7,800億ドル | 65倍 | 38倍 | 0.6% | +18% |
| Vertex Pharmaceuticals | VRTX | $445 | 1,150億ドル | 30倍 | 24倍 | 0.0% | +12% |
| Moderna | MRNA | $145 | 560億ドル | 赤字 | 赤字 | 0.0% | +9% |
| iShares Biotechnology ETF | IBB | $148 | 87億ドル | n/a | n/a | 0.2% | +14% |
マクロ前提:USD/JPY 152、米10年債利回り4.4%、日10年債1.5%、原油WTI $78/bbl、金 $2,650/oz、S&P 500 5,820、ナスダック総合 18,150。
Eli Lillyの2025年通期売上は580億ドル、うちGLP-1関連(Mounjaro+Zepbound)が270億ドルを占め、肥満症だけで前年比+82%。Vertexの嚢胞性線維症フランチャイズ「Trikafta」「Vanzacaftor」は年間115億ドルを生み出し、加えてCasgevy(鎌状赤血球症のCRISPR治療)が2026年通期で12億ドルへ立ち上がる見込み。Modernaは2025年売上32億ドルで赤字18億ドルだが、肥満mRNAワクチン「mRNA-6231」が2027年承認を視野に入っており、パイプラインの転換点に立つ。
主要な治験マイルストーン:
- Eli Lilly:retatrutide(GLP-1/GIP/グルカゴン三重作動薬)の第3相試験が2026年秋に主要評価項目達成見込み。減量効率24%超のデータが事前公表されると株価は10%以上動く可能性。
- Vertex:non-opioid疼痛治療薬suzetrigine(VX-548)の追加適応で2026年6月にFDA承認予定。鎮痛市場(年間200億ドル)への参入。
- Moderna:個別化がんワクチンmRNA-4157のメラノーマ第3相、2026年Q4トップライン。Merck(KEYTRUDA)と共同開発で、成功すればMRNA株は2倍化のシナリオもある。
比較・戦略パート
3社は同じ「バイオテック」だが、リスク・リターン特性は大きく異なる。Eli Lillyはすでに利益体質で配当も出すラージキャップ、VertexはCFフランチャイズで安定収益基盤を築いた中型成長株、Modernaは無収益・パイプライン依存のオプション型株である。配分の考え方として、コア60%・サテライト30%・ベンチャー10%の三層構造を提案したい。
配分例(投資元本500万円、米株サテライト枠):
| 銘柄 | 比率 | 金額 | 円換算 |
|---|---|---|---|
| Eli Lilly(LLY) | 50% | 250万円 | 約16,400ドル |
| Vertex Pharmaceuticals(VRTX) | 25% | 125万円 | 約8,200ドル |
| iShares Biotech ETF(IBB) | 15% | 75万円 | 約4,930ドル |
| Moderna(MRNA) | 10% | 50万円 | 約3,290ドル |
Eli Lillyの代替・補完としては、Novo Nordisk(NVO、デンマーク上場ADR)が同じGLP-1市場の競合として存在する。NVOの時価総額は4,800億ドル、Wegovy/Ozempicフランチャイズで2025年売上410億ドルを記録した。LLY:NVO比率は1:0.6が現状の市場評価で、リスク分散のため両社を併せ持つ「GLP-1デュオ戦略」も合理的だ。
VRTXの代替として遺伝子治療ピュアプレイのCRISPR Therapeutics(CRSP)、Beam Therapeutics(BEAM)、Editas Medicine(EDIT)があるが、これらは収益化が遅れており、商業化フェーズに到達したVertexのほうがリスク調整後リターンで優位。Modernaの代替はBioNTech(BNTX、ドイツADR)で、両社はがんmRNA領域で競合・協業の関係にある。
セクター内分散では、IBB(時価加重)とXBI(均等加重)の2本でラージキャップ偏重と中小型株偏重のどちらをコアにするかが分かれる。長期成長を狙うならXBI、ボラティリティを抑えたいならIBBが定石である。
日本居住者の実務
米国個別株を日本居住者が保有する際の税務・実務ポイントを整理する。
1. NISA成長投資枠の活用
2024年に恒久化された新NISA成長投資枠(年間240万円、生涯1,200万円)は米個別株とETFが対象。LLY、VRTX、MRNA、IBBはいずれも適格商品(証券会社の対象一覧を要確認)。NISA枠で保有すれば日本側の譲渡益課税20.315%が非課税になるが、米国側の配当源泉税10%は還付されない点に注意。
2. 配当の二重課税と外国税額控除
Eli Lillyの配当(年4回、2026年4月予定の四半期配当は$1.50/株)は米国で10%源泉徴収、日本で20.315%課税される。特定口座(源泉徴収あり)であれば、確定申告で外国税額控除を行うことで二重課税を一部還付できる。年間外国所得税額の上限は所得税×(外国所得÷総所得)で計算され、給与所得の高い投資家ほど控除枠が大きくなる。
3. 譲渡益の取扱い
特定口座(源泉徴収あり)であれば申告不要だが、損失通算や譲渡損失の3年繰越控除を活用するため、損失年は確定申告したほうが有利。米国株はドル建てで損益計算する一方、税務上は約定日のTTMでの円換算評価額が基準となるため、為替差損益が含み益・含み損と混在することを理解する必要がある。
4. 相続時の評価と為替
被相続人が米株を保有していた場合、相続税評価額は相続開始日のTTMで円換算した時価。生前贈与でNISA枠を子・配偶者に振り分ける戦略は、贈与税の暦年110万円控除と組み合わせると有効。ただし、米国側のEstate Tax(連邦遺産税)の対象は2026年時点で米国非居住者は60,000ドル超で課税されるため、米株評価額が高い場合は事前に税理士相談が必須。
5. 居住者要件の確認
日本の永住権者・帰化済み者でも、米国市民権・グリーンカード保有者であれば米国の全世界課税の対象となり、状況が大きく変わる。海外赴任や駐在予定がある場合、出国前に保有米株の含み益を整理(出国時課税の対象になるかをチェック)することが重要。
まとめ
- Eli Lillyは肥満症治療薬市場の覇者として2026年も利益成長を続け、retatrutideのデータ次第ではさらなるリレーティングが期待できる。
- Vertexは嚢胞性線維症で安定収益、遺伝子治療と疼痛領域でTAM拡張中。中型バイオで最も商業化が進んだ銘柄。
- Modernaは赤字フェーズだが、肥満mRNAとがんワクチンの治験成功が2027年以降の収益化転換点となる「オプション型」投資。
- 配分はコア(LLY 50%)、サテライト(VRTX 25%、IBB 15%)、ベンチャー(MRNA 10%)の三層が現実的。
- 日本居住者はNISA成長投資枠の活用、外国税額控除、米国遺産税の閾値、為替差損益の処理を必ず把握する。
出典・参照
- https://www.bloomberg.com/quote/LLY:US
- https://www.reuters.com/business/healthcare-pharmaceuticals/
- https://www.ft.com/lex/eli-lilly
- https://www.sec.gov/cgi-bin/browse-edgar?action=getcompany&CIK=0000059478
- https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1240.htm