東南アジア / カンボジア シリーズ
カンボジア経済データ完全解説|GDP成長率・縫製産業・中国FDI・ドル化経済
カンボジア経済は2024年に6.0%の成長を記録した後、2025年には4.8%、2026年には4.0%へと減速する見通しとなっている(IMF 2025年11月第4条協議)。世界銀行のより楽観的な予測でも2026年は4.3%にとどまり、コロナ禍前の7%前後で推移していた「東南ア…
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「減速するフロンティア」──2026年のカンボジア経済
カンボジア経済は2024年に6.0%の成長を記録した後、2025年には4.8%、2026年には4.0%へと減速する見通しとなっている(IMF 2025年11月第4条協議)。世界銀行のより楽観的な予測でも2026年は4.3%にとどまり、コロナ禍前の7%前後で推移していた「東南アジアの成長エンジン」という姿からは一段減速した局面にある。
減速の要因は複合的だ。米中貿易摩擦の再燃による輸出減速、タイ・ベトナム国境での緊張、海外からの送金減少、そしてコロナ後に膨張した不動産・建設セクターの調整が続いている。特に米国がカンボジア縫製品に対して追加関税を検討している動きは、GDPの約16%を占める縫製・履物・旅行用品産業(GFT産業)の先行きに影を落としている。
1,860億ドル規模の経済と、製造業一極集中の構造
カンボジアの名目GDPは2025年時点で約500億ドル(1人当たり約2,800ドル)、2026年には520億ドル程度に達する見込みだ。産業構造は製造業(24%)、農業(22%)、卸売・小売(13%)、建設・不動産(10%)、観光・ホスピタリティ(10%前後)という構成で、特に外貨獲得は縫製・観光・不動産FDIの3本柱に依存する。
縫製産業は労働人口の約100万人を雇用し、輸出の6割以上を占める基幹産業である。ただし、賃金上昇(月額最低賃金は2026年に208ドル)とベトナム・バングラデシュとの競争激化により、「低賃金の縫製工場」というモデルは転換期にある。カンボジア政府はこれを受けて、電子部品組立・自動車部品・太陽光パネルといった「非縫製製造業」へのシフトを国家戦略として推進している。
中国FDI支配──全体の73%が中国マネー
2025年のカンボジアへの外国直接投資(FDI)は52億ドル、そのうち実に73%が中国からの投資であった(Council for the Development of Cambodia統計)。製造業FDIが前年比50%増となり、縫製だけでなく電子機器・金属加工・太陽光関連への投資が顕著に増えている。
シハヌークビル経済特区を中心に、中国系企業のサプライチェーン移転が続く一方で、不動産・建設セクターへの中国マネー流入は減速傾向にある。コロナ前に中国人バイヤーがプノンペンのコンドミニアム市場を牽引したが、中国本土の不動産不況と資本規制強化により、投資家層は多様化(韓国・日本・シンガポール・マレーシア)に向かっている。
「世界で最も高度にドル化された経済」という特異性
カンボジアの最大の経済的特徴は、その高度なドル化である。国内銀行預金の約89%が米ドル建て、大口取引の9割超がドル建てで行われる。自国通貨「リエル」は少額取引と地方部でのみ流通し、プノンペンの不動産取引はすべてドル建てが標準だ。
このドル化は、通貨安リスクを抑える効果がある一方、カンボジア国立銀行の金融政策の自由度を制約する。米連邦準備制度(FRB)の金利政策がそのままカンボジアの金融環境に影響し、2022〜2024年の米国利上げ局面では同国の住宅ローン金利も連動上昇した。外国人投資家にとっては、為替リスクが最小化される利点があるが、米国景気サイクルへの連動性が高い点に留意が必要である。
日本とカンボジア:ODAから民間投資への転換期
日本はカンボジア最大のODA供与国として長年関係を築いてきたが、近年は民間投資が注目されている。イオンモールプノンペンの成功、AEON系銀行、SBI-Royal Securitiesの証券業進出、日系物流企業のSEZ進出など、消費関連とインフラ分野で日本企業のプレゼンスが拡大している。2025年時点でカンボジア進出日系企業数は約280社に達し、ASEAN域内でも成長率が高い投資先の一つとなっている。
データパート
GDP成長率推移と予測
| 年 | 実質GDP成長率 | 名目GDP(億USD) | 1人当たりGDP(USD) | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| 2022 | 5.2% | 298 | 1,784 | IMF |
| 2023 | 5.0% | 316 | 1,882 | IMF |
| 2024 | 6.0% | 453 | 2,668 | IMF |
| 2025(推計) | 4.8% | 490 | 2,771 | IMF |
| 2026(予測) | 4.0% | 520 | 2,910 | IMF |
| 2027(予測) | 5.1% | 560 | 3,115 | 世界銀行 |
産業構造(GDP構成比・2025年推計)
| 産業セクター | 構成比 | 主要活動 |
|---|---|---|
| 製造業 | 24% | 縫製、履物、旅行用品、電子組立 |
| 農業・漁業 | 22% | 米、キャッサバ、ゴム、淡水魚 |
| 卸売・小売 | 13% | 伝統市場、モール小売、ECの拡大 |
| 建設・不動産 | 10% | 住宅、商業施設、インフラ |
| 観光・ホスピタリティ | 10% | アンコール、沿岸部、MICE |
| 金融・保険 | 6% | 銀行、マイクロファイナンス |
| その他サービス | 15% | 運輸、通信、教育、医療 |
外国直接投資(FDI)国別内訳(2025年)
| 国・地域 | FDI流入額(億USD) | シェア |
|---|---|---|
| 中国 | 約38 | 73% |
| 韓国 | 約4.2 | 8% |
| 日本 | 約2.6 | 5% |
| シンガポール | 約2.1 | 4% |
| ベトナム | 約1.6 | 3% |
| その他 | 約3.5 | 7% |
| 合計 | 52 | 100% |
縫製・履物・旅行用品(GFT)産業の主要指標
| 項目 | 数値(2025年) |
|---|---|
| 輸出額 | 約130億USD |
| 総輸出に占める割合 | 約62% |
| 雇用人数 | 約100万人 |
| 最低賃金(月額) | 204USD(2026年208USD予定) |
| 主要輸出先 | 米国(35%)・EU(25%)・日本(9%) |
| 縫製工場数 | 約1,200工場 |
ドル化経済の実態
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 銀行預金のドル建て比率 | 約89% |
| 大口取引のドル建て比率 | 約90%超 |
| 不動産取引のドル建て比率 | 約100%(都市部) |
| リエル/USDレート(2026年4月) | 約4,050リエル/USD |
| 基準金利(NBC) | 政策金利なし(ドル化のため) |
主要マクロ経済指標
| 指標 | 2024実績 | 2025推計 | 2026予測 |
|---|---|---|---|
| 実質GDP成長率 | 6.0% | 4.8% | 4.0% |
| インフレ率(CPI) | 0.8% | 2.5% | 2.8% |
| 経常収支(対GDP比) | ▲2.1% | ▲2.8% | ▲3.2% |
| 財政収支(対GDP比) | ▲3.4% | ▲3.8% | ▲3.5% |
| 公的債務(対GDP比) | 35.9% | 37.2% | 38.5% |
| 外貨準備(億USD) | 約207 | 約218 | 約225 |
主要貿易相手国(2025年推計)
| 国 | 輸出額(億USD) | 輸入額(億USD) | 貿易収支 |
|---|---|---|---|
| 米国 | 約78 | 約5 | +73 |
| 中国 | 約15 | 約95 | ▲80 |
| ベトナム | 約28 | 約35 | ▲7 |
| 日本 | 約20 | 約6 | +14 |
| EU | 約35 | 約12 | +23 |
出典
- IMF Executive Board Concludes 2025 Article IV Consultation with Cambodia
- Cambodia GDP Growth to Slow to 4.8% in 2025 and 4.0% in 2026 - Cambodia Investment Review
- Cambodia 2026 Growth Outlook of 4.3% - World Bank via Cambodia Investment Review
- Cambodia Attracts $5.2 Billion in FDI in 2025, China Accounts for Over 70% of Inflows
- 2025 Investment Climate Statements: Cambodia - U.S. Department of State
- Investing in Cambodia 2025 and beyond - KPMG
- World Bank Cambodia Economic Update June 2025